2022年1月5日 水曜日 午後、雪かなり強く降る
神野正史 粛清で読み解く世界史 辰巳出版 2018年
“民主的な戦闘民族”の誕生
・・そもそも現在の「ヨーロッパ人」は、今から4000年ほど前まで、ポントス・カスピ海草原(ステップ)で何千年にわたって遊牧をしていた民族と言われています。
遊牧民の生活はたいへんに厳しい。
そこは年間を通じて降水量が少ないため農耕には適さず、獣を育む豊かな森林すらないため狩猟もできず、林業も叶わず、近くに海もないため漁撈もできない。・・そこに住む民は・・目の前の草を家畜に食べさせ、その乳と肉で食いつなぐ(牧畜)くらいしか生計の道はありません。 しかし、それとて厳しい。 降雨量が少なすぎて、家畜を放牧すればたちまち辺り一面禿地となってしまうためです。 したがって、新しい牧草地を求めて移動を強いられる「遊牧民」とならざるを得ません。
移動生活となれば文明を高めることもできず、立派な建物に住むことも叶わずテント暮らし、住み心地は悪く、昼は暑く夜は寒い。 限られた牧草地をめぐって小競り合いも後を絶たず。 それでも気候やその他の環境が安定しているときはまだマシで、それらのバランスが少しでも崩れれば、たちまち凄惨な生き残りを賭けた戦が頻発することになります。
戦に敗れれば女は妾とされ、男は皆殺し(原注#)か、よくても奴隷。
敗北は死に直結するため、命(DNA)を次世代に紡ぐことができるのはつねに「勝者」のみ。
こうして「強きものしか生き残れない」という歴史を何千年も繰り広げてきた彼らの精神の奥底に、必然的に拭いようのないひとつの価値観が深く深く刻み込まれていきます。
ーー強者が正義!
こうして尚武精神の塊のような民族性をもつ“戦闘民族”ができあがりました。
しかし、“戦闘民族”という言葉のイメージとは裏腹に、彼らの社会からは“強大な権力を持った専制君主”は現れません。 なんとなれば、一瞬の判断ミスが部族全滅にも繋がりかねない厳しい環境にあって、たったひとりの専制君主にすべての判断を委ねていては生き残ることなどできないからです。
したがって、何事も成年男子が集まって話し合う“民主政”が浸透していきました。(神野、同書、p286-288)
**
原注#)これは「残忍」というより、戦が起こるときはたいてい飢えていますので、敵の部族を生かしておく経済的余裕がなく、殺すほか選択肢がないためです。(神野、原注、同書、p289)
**
*****
*********************************