2022年3月6日 日曜日 晴れ
神野正史 世界史劇場 ナチスはこうして政権を奪取した 第二次世界大戦の火種はいかにしてつくられたのか? ベレ出版 2016年
神野正史 世界史劇場 第二次世界大戦 熾烈なるヨーロッパ戦線 欧米各国の思惑と戦争の実像に迫る! ベレ出版 2019年
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専制と独裁:
ヒトラーは「専制君主」ではなく、あくまでも「独裁者」(原注*)ですから、万一ここで政治無能をさらけ出すならば、政権はたちまち崩壊することになります。(原注#)
原注*: 専制体制の場合、統治者は「支持基盤」を必要とせず、己が思い通りの政治を行うことができ、失政を犯しても失脚することはありませんが、独裁体制の場合、独裁者はつねに「支持基盤」を必要とし、失政を犯してこれにそっぽを向かれるとたちまち失脚します。
原注#: あれほどの権勢を誇った独裁者ムッソリーニが、戦争に敗れた途端、民衆に襲撃されて袋叩きに遭い、愛人とともに“逆さ吊りの刑”にされたことを想起されたい。(神野、第二次世界大戦、p15)
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宥和政策:
・・再軍備宣言(1935年3月16日)・・ もしこのとき、英仏が宣戦布告していたら。 いえ、実際に宣戦布告しなくても、それをチラつかせて恫喝しただけでヒトラーは「再軍備宣言」を撤回せざるを得なかったでしょう。 そうなればヒトラーの国民人気はガタ落ちとなり、ヘタをすれば失脚していたかもしれません。・・・(中略)・・・ではなぜ、英仏はそうしなかったのか。 じつは、したくてもできなかったのです。 なんとなれば、当時の英仏は「宥和政策」という“底なし沼”にどっぷり肩まで浸かり、身動きが取れなくなっていたためです。 人類初の“総力戦”となった第一次世界大戦は、ヨーロッパ人をして戦争に対する拒絶反応を引き起こさせ、戦後の政治家は「反戦!」を公約(マニフェスト)に組み込まないと選挙に勝てない、という政治状況が生まれていました。
しかし、戦争というものは「念仏のように“戦争反対”と唱えていれば避けられる」という代物ではなく、現実はその逆、「戦争から背を向ければ向けるほど、戦争は雪だるまのように巨大化しながらこちらに突進してくる」ものです。 ほんとうに戦争を回避したければ、敢えて「戦争」を叫ばなければならないこともあるのが“外交”というもの。
しかし、一般大衆にそうした外交理論を万言尽くして説明してやっても理解されることはありません。「今、戦争を叫ばなければ、避けられる戦争も避けられなくなる」とわかりきっていても、ただただ感情的に「戦争反対!」と叫ぶことしかできない大衆の“声”に応えなければならないのが「民主主義」です。
したがって、英仏はまだヒトラーの力が弱い今のうちに「戦争」をチラつかせてやれば、一発でヒトラーを黙らせることができ、それが戦争を避けることに繋がるとわかっていながらこれを実行に移すことができません。(神野、第二次大戦、p41-42)
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