literature & arts

瞑想中の自分が抱いていた印象は、おそらく心のなかに深くしまいこんでいるのだ。

2023年1月20日 金曜日 曇り

ドストエフスキー 亀山郁夫訳 カラマーゾフの兄弟1 光文社古典新訳文庫 2006年(原作は1879-1880年)

 ・・画家のクラムスコイに『瞑想する人』という題の素晴らしい絵がある。冬の森が描かれ、その森の道で、このうえなく深い孤独にさまよいこんだ百姓が、ぼろぼろの外套にわらじというなりでひとり立ったままもの思いにふけっているのだが、彼はけっして考えているのではなく、何かを「瞑想している」のである。・・・(中略)・・・じっさい、すぐにわれに返るが、立ったまま何を考えていたのかと問われてもおそらく何も思い出せないにちがいない。しかしそのかわり、瞑想中の自分が抱いていた印象は、おそらく心のなかに深くしまいこんでいるのだ。・・多くの年月にわたってこれらの印象を溜め込んだあげく、ふいに彼はすべてを捨てて放浪と修行のためにエルサレムに旅立ったり、もしかすると故郷の村をとつぜん焼き払ったり、ことによるとその二つを同時に起こしたりするのかもしれない。民衆のなかにはかなりの数の瞑想者がいる。

 思えばスメルジャコフもまた、おそらくはそういう瞑想者のひとりであり、自分でもなぜかはほとんど分からず、おそらくはむさぼるようにして自分の印象を溜めこんでいたにちがいない。(ドストエフスキー、同訳書、p340)

クラムスコイ 瞑想する人 1876 ウィキメディアコモンズから引用

**

補註: クラムスコイについては以前の私のページでも紹介したことがある。13、4年前の夏、広島を訪れたときに、ロシア印象派の展覧会で鑑賞する機会があり、強い印象を受けた。

https://quercus-mikasa.com/archives/9032
狂おしいばかりの域に達した≪屈辱を受け現実離れした女≫の誇り 2019年12月6日 金曜日 晴れ ドストエフスキー 白痴1 亀山郁夫訳 2015年(原書は1868年) ...

*****

*********************************

RELATED POST