culture & history

「歴史のなぜ?」に遭遇した時、根拠を洗い出し、今まで共有されなかった「そうだったのか!」を積み重ね、安易に価値判断を下さなかった。

2023年12月14日 木曜日 曇り

長浜浩明 謀略の戦争史 日本人が知っておきたい歴史の裏側 展転社 2021年(「日本とアメリカ 戦争から平和へ」2017年・アイバス出版を改題し、大幅に加筆・増補した最新版) 

・・わが国の敗戦後までを加えたのは、諸外国が日本に仕掛けた“罠”は遠大な謀略ともいえるものだったからだ。そして日本は彼らの思惑通りに引きずり回され敗北したのだが、この敗北は一つの節目に過ぎず、これを境に仕掛けられた謀略が姿を現し、世界に新たな戦乱が巻き起こった。このことを欠落させては、その前史や現在進行中の歴史が分からなくなる。  本書は、単純な「責任論」や「善悪論」をテーマとしていない。現代を知り、将来を見通すには、外交と戦争の歴史を通して米国人、シナ人、中国人、韓国・朝鮮人、ロシア人の本質を学ばねばならない。  歴史を振り返り、如何にして日本は戦争に追い込まれ、敗北したか、その時彼らは何を考えていたか、何処で判断ミスをしたか、それらを同時代資料に求めた。そして「歴史のなぜ?」に遭遇した時、根拠を洗い出し、今まで共有されなかった「そうだったのか!」を積み重ね、安易に価値判断を下さなかった。  何故なら、例えば日本を敗北に導いたものは日本にとって疫病神的存在だが、勝利した側から見れば英雄になるからだ。各国が国運をかけて外交戦と熱戦に全力を尽くしたのだ。騙された日本は愚かだったことは確かだが、「騙したほうが悪かった」なる判断に意味はないと考えている。  人は歴史から学ぶほかない。  敗戦により、私たちの祖父母や父母の時代は辛酸を舐め、苦難を背負い、シナ、満州、朝鮮、台湾への巨額投資は全てパアになり、極貧のどん底に突き落とされた。  それはつい最近の話だから、少しは身に沁みて賢くなったか、と思いきや、既に全てを忘れ去り、・・との友好を信じ、彼らを支援し、投資し、騙され、全てを失う愚か者が後を絶たないのはどうしたことか。(長浜、同書、p3-4)

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 ・・米国はシナ進出の橋頭堡としてフィリピンを獲得した。そして彼らが”エルドラド”と夢想したシナへの進出の阻害要因が日本である、と誤認したことが日米抗争の基底をなしたのである。(長浜、同書、p80)

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 帝国陸軍・ウソの始まり「日露戦史編纂綱領綴」(2005年3月26日の読売新聞の記事などを参考としたもの)

 ・・明治末に生まれ、北支から南支へ転戦し、東部ニューギニアで敗戦を迎えた父(補註:長浜氏のお父さん)は、乃木を評価しなかった。一つ覚えのように、夜襲と銃剣突撃を繰り返して死んでいく戦友を視てきた父には、その指揮官と乃木がダブって見えたのだろう。「バカな参謀が無駄に兵隊を殺しやがって!」と辻正信ら、ニューギニアを知らない戦争指導者を無能呼ばわりしていた。

 この苦境を脱し、二〇三高地を奪取できたのは榴弾砲による砲撃だった。お台場から運ばれた砲弾の一発は司令官コンドラチェンコを即死させ、ロシア軍を震撼させた。

 日露戦争での死因を調査すると、銃創が76.9%、砲創が18.9%、白兵創が0.9%、その他が3.3%だった。即ち、銃剣突撃・白兵戦による犠牲者など無きに等しかった。

 このデータは日清戦争で得られた教訓、「歩兵戦闘は火力を以て決戦するを常とす」の正しさを改めて証明した。普通に考えれば、このデータを生かして戦略戦術は練られるべきだったが、陸軍は戦史作成に当たり実態を隠蔽した。

 1906年、陸軍参謀本部にて指揮を執った大山巌参謀総長が指示した『日露戦史編纂綱領綴』には次のような項目があるという。 

① 軍隊又は個人の失策に類するものは明記すべからず

② 戦闘に不利を来したる内容は潤色するか真相を暴露すべからず

③ 戦闘能力の損耗若しくは弾薬の欠乏の如きは、決して明白ならしむべからず

④ 司令部幕僚の執務に関する真相は記述すべからず

 特に旅順戦に至っては「細部を記すべからず」と制約をつけ、約15,400名の戦死者と、44,000名の負傷者を出したことを隠蔽した。そして戦史から火力の重要性を消し去り、甚大な犠牲者を出した原因の追及を行わなかった。・・・(中略)・・・

 ・・こうして陸軍首脳は、日清日露の戦で多くの将兵の命と引換えに得られたデータと教訓を捨て去り、将兵に対して重砲や機関銃で攻撃する敵に向かって軍刀・銃剣・手投げ弾による突撃を正当化した。

 日米戦で惨劇が繰り返された一因は、補給を無視した戦争指導者と、一つ覚えの「斬り込み」を「玉砕」という美名で糊塗した人命軽視があったからだ。(長浜、同書、p99-101)

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