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全員にひとしく共通していえる特徴は、仏像の夢みるようなおだやかさーーあの愛も憎しみもなにも示さず、わずかに心の静謐のみを示すあの特別なおだやかさである。

2023年2月27日 月曜日 晴れ

小泉八雲著/平川祐弘編 小泉八雲名作選集 明治日本の面影 講談社学術文庫943 1990年(原著は Lafcadio Hearn, From the Diary of an English Teacher, etc. 明治23年〜など)

 ・・入学当時はどんなに間抜けであろうとも、いつまでもそうおっとりとしていられない。男らしさが尊重され、粗野であってはいけないが、自立心と自己統御の気風が重んぜられる。生徒は話す時、教師の顔をまっすぐ見つめ、一語一語はっきり言うばかりか通る声で言わなければならない。・・・(中略)・・・ 授業中の生徒たちの態度は欠点がなさすぎるほどである。私語は聞かれず、許可なしに本から目をあげる者もない。生徒を名前で呼ぶと、生徒はただちに起立し、元気な声で返事する。(小泉、同訳書、p14-15)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/fa/Lafcadio_Hearn_in_1889.jpg

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  ・・近代日本の教育制度の下ではすべての教育は徹底して親切と優しさを旨として行われている。教師は字義通り教師 teacher であって、英語の支配関係(マスタリー)の意味における主人 master ではない。生徒に対しいわば兄の関係なのである。(小泉、同訳書、p26)

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 ・・日本のクラスで目の前の生徒の列を見渡す時の第一印象は不思議なまでに快い感触である。経験不足の西洋人にとってそこに見える顔にはなに一つ見馴れたものがあるわけではない。それなのにそこにいるすべての生徒に共通しているなにかはなんともいえぬ心地よいなにかなのだ。・・・(中略)・・・だが全員にひとしく共通していえる特徴は、仏像の夢みるようなおだやかさーーあの愛も憎しみもなにも示さず、わずかに心の静謐のみを示すあの特別なおだやかさである。ところがしばらく経つとこの感情を表にあらわさぬ落ち着いた面というものが見えなくなってしまう。互いに知りあうにつれ生徒の一人一人の顔が以前には気がつかなかった特徴によって次第に個性化されて行くからである。それでもその第一印象はやはりこちらの心のどこかにずっと残っている。そしてこの最初の印象が日本人の性格の中にひそむなにかーー長年日本人と親しく付き合った後にはじめて納得の行くなにかーーをいかにも不思議なことだが、その時からすでに予兆していたのである。(小泉、同訳書、p62-63)

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