culture & history

政治権力の源泉となる群衆

2016年10月12日 水曜日 雨

シェイクスピア ジュリアス・シーザー 安西徹雄訳 光文社古典新訳文庫 2007年

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ブルータス: 諸君の理性に従って、私の立場を判断してくれ。そしてよりよき判断をなさんがためには、諸君の理性を呼び醒まして欲しいのだ。(同書、p99)

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アントニー: 遺言状を取って来てくれ。三人で決めねばならんからな、平民どもに分ける遺産を、どうやって切りつめるか。(同書、p119)

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群衆の無知・無定見と、にもかかわらず、政治権力の源泉となるというテーマ(安西、同書・解題、p202)

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「ジュリアス・シーザー」という作品は、とくに一連の喜劇の展開にいちじるしい内面化のプロセスと、他方、英国史劇の連作のうちに、政治力学の実態の仮借ない分析、洞察が深まってゆくプロセスと、二つの過程の合流する結節点に位置する作品と捉えることができよう。そしてまた、世紀末をまたいで書かれた成熟期の喜劇(たとえば「十二夜」や「尺には尺を」)に、しだいに色濃く滲透してくる悲劇的、ないしは問題劇的な、人間の内部の深層の闇にたいする意識をさらに深く追究すると同時に、他方、英国史劇という枠組みを外し、ローマ史という、より普遍的な設定に踏み出すことによって、権力というもののはらむ矛盾をより徹底して仮借なく探究すべく、悲劇の時代へと踏み込む出発点となった作品と位置づけることができるだろう。(安西、同書・解題、p204-205)

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