2021年12月21日 火曜日
行方昭夫 英文精読術 Red (William Somerset Maugham) DHC 2015年 (原著 Red (William Somerset Maugham) は1921年だからちょうど100年前の小説)
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・・与えたのは彼女が大事だと思わないものだけだった。彼がふと垣間見た魂は彼のものにならなかった。彼女が自分のことを少しも好いていないと分かった。いまだにレッドを愛し、いつも帰りを待ち続けていた。もしレッドからちょっとでも連絡があろうものなら、一瞬の迷いもなくニールスンを捨てて行くのは確かだ。彼の愛情も優しさも同情も寛大さも彼女を引きとめることはできない。彼が悲しむことなど一切意に介さないだろう。(行方訳、p19〜20)
補註: 「人間の絆」や「月と六ペンス」など、「二日酔いの作家(「如是我聞」太宰)」モームの独擅場。
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・・二人は苦しみはしたでしょうが、美しい恋心のままで苦しんだのですから、恋の本当の悲劇は免れたのです。
・・恋の悲劇は死や別離ではありません。二人の一方が相手に無関心になるまで、どれくらいの時間がかかったか、想像できますか? ああ、自分が全身全霊を上げて愛し、その女が見えるところにいないのを我慢できなかったほど愛した女だったのに、今では彼女と会えなくても平気になるというのは、何と悲しいことでしょう! 恋の悲劇は無関心というやつですよ」(モーム、レッド、行方訳p20)
補註: ニールセンは一般論のように語っているが、ここではもちろん、ニールセン本人のサリーへの激しい恋心と、その「無関心」になるまでの経過と現在(=恋の悲劇)を心に描きながら語っているのである。モームの読者であってみれば当然、あの「人間の絆」のフィリップがミルドレッドに対して「無関心」になるまでの長い苦しみの経過(=恋の悲劇)を想起させられる。ほかにも、「月と六ペンス」その他。
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2022年1月6日追記:
参考: 描出話法に関しての反省:
さらに、アシェンデンからの考察の続き:
モーム アシェンデン(2)2017年3月28日 火曜日 晴れ モーム アシェンデン 英国情報部員のファイル 中島賢二・岡田久雄訳 岩波文庫 赤254-13 …
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